SNSに溢れる「いじめ動画」賛否を問う

★息子に対するいじめを終わらせたい

「そこまでしなければ、この地獄は終わらなかったんです」

以前、私が教育委員会の主事だった時、あるいじめの被害者の保護者が絞り出すように言ったこの言葉が、今も耳を離れません。

※ここからは、個人情報保護のため主旨等はそのままに、脚色を加えて個人を特定できないようお話しします。ご了承ください。

その母親は、中学生である自分の息子が、不良仲間から頻繁にリンチ的ないじめに遭っていることを確信していました。

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それで学校、教育委員会、警察にも相談していたのです。

ところが、息子さんがいじめに遭うのは学校外。

いじめの場を抑えることがなかなか難しい。

学校、教育委員会、警察も証拠がなければなかなか動けないわけです。

学校、警察としても被疑者から事情聴取を行うには、まずは息子さんから「訴え」が必要です。

しかし、「チクリ」は、その後の報復を恐れる息子にとって「恐怖」以外のなにものでもありません。

いくら問い正しても「いじめられてなんかいない」、と口を割りません。

中学生とはいっても、彼らはまだ幼くて、学校や仲間関係が彼らにとって「社会」のすべてなのです。

いじめから解放されることよりも、その社会から排除される恐怖の方が上回っているのです。

★いじめの動画を発見

ですので、母親としても何か打開策がないかと思案していたわけです。

そんなある時、偶然、息子さんの携帯に、息子がいじめられている動画を見つけたのです。

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なぜ被害者である息子が、自分がいじめられている動画をもっているのかわかりませんでした。

もしかしたら、いじめている子どもたちが、冷やかしや脅迫のために、息子さんに送ったのかもしれません。

それはわかりませんが、その動画は壮絶でした。

「いじめ」なんて生易しいものではなく、それは間違えば死に至るであろうほどの苛烈な暴行動画でした。

母親は、その動画を保存し、学校、教育委員会、警察に出向きます。

そこでやっとこれらの組織は動き出しました。

母親もやっといじめから息子を救える。

そう思っていました。

★動かない?動けない?学校、警察

ところが。

数か月経っても具体的な動きが見えてこないのです。

何度も、学校、教育委員会、警察に足を運び、進捗を確認しますが、

「調査中です。もうしばらくお待ちください」

との回答。

私も元教師であり、教育委員会で勤めた経験もありますのでわかるのですが、一つの動画だけで加害者を認定するのはかなり困難なのです。

特に撮影が夜だったりすると、人物の特定が難しい上に、そもそもその動画が「創作」であるケースも想定しなければなりません。

おそらく「この子」であろうと推測はできても、確信をもって「加害者」と断定するのは難しいのです。

仮に、それが誤認だった場合、疑われたことによって、精神的なトラウマを抱えてしまう可能性もないとは言えません。

早く被害者を救ってあげたい。

その思いはどの組織でも変わらないはずです。

しかし、その調査、捜査の過程は慎重でなければならない。

特に相手が未成年であればなおさらです。

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それが、日本の精神文化の強味でもあり、弱点でもあると私は思っています。

★母親がSNSで動画を拡散

さて、動画を見つけたことで「息子が救える」と考えた母親にとって、進まない調査の時間は永遠に感じられたはずです。

そんな絶望的な状況に打ちふさがれている母親が、ある時、ふと見たYouTube動画に釘付けになります。

そのYouTube動画は、スマホで撮影した動画をTwitter(現X)へアップする方法と、バズった時の情報拡散力の大きさについて解説する内容でした。

瞬間的に、

「もうこれしかない」

母親はそう考えたのです。

動画がアップされると、動画はバズり、瞬く間に情報は拡散されました。

すると、学校や教育委員会、警察に様々な情報がもたらされました。

もちろん、誤情報もありましたが、それ以上に、加害者を特定できる多くの有益な情報が集まってきたのです。

その情報をもとに、数名の加害者が特定されただけでなく、息子さん以外にも、かなりの数の被害者がいたこともわかったのです。

その後、加害者たちは特別な施設に送られました。

息子さんに対するいじめはやっと終焉したのです。

★一生続く動画拡散の後遺症

さて、私は何が言いたいのか。

SNSへの動画アップを肯定しているの?

そう聞きたくなるでしょう。

しかし、そうではありません。

なぜなら、この話には後日談があるからです。

このいじめが終焉して数年後。

この動画が再び復活したのです。

デジタルタトゥーとして、ネット上で寝ていたのです。

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それが誰かの手で起こされ、再びネット上で息を吹き返したのです。

幸い、すぐに動画は取り下げられました。

おそらく、その母親と息子さんが動画の削除を求めて動いたのでしょう。

しかし、安心してはいられません。

まだ、動画がネット上のどこかで寝ているかもしれません。

それが誰かの力で再び息を吹き返さないとも限らないのです。

これでは加害者だけでなく、被害者も不安を抱えながら今後の長い人生を過ごさなくてはいけなくなります。

「晒し動画は諸刃の剣(もろはのつるぎ)」

そう言わざるを得ません。

★人間はいまだ進化の過程にある

さて、こうしたSNSを使った「動画アップ」による「いじめ」の解決。

皆さんはいかがお考えでしょうか。

関係機関と連携して、、、、、。

おそらくそれは正論でしょう。

なぜなら、正論をかざすことは簡単だからです。

しかし、みなさんのお子さんが、またはお孫さんが、いじめの被害者になってしまった場合、本当に冷静に対応できるでしょうか。

自分の命をかけてでも守りたい、子ども、お孫さんですよ。

その子が、

「いじめられている」

その事実を知ったときには、おそらく胸が張り裂けるほどの悲しみ、あるいは加害者に対して、憎悪以上の憎しみがこみあげてくるでしょう。

しかし、私たちは現代社会に生きる「人間」です。

嚙まれたら噛み返す獰猛な野生動物とは違います。

いまだ成熟した生物とは言い難いですが、人間の精神文化は、こういった経験が進化を促していくのです。

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ですので、やはりまずは、学校、教育委員会、警察と連携し根気強く問題解決を進めていくべきなのです。

それでも事態が変わらなければ、弁護士さんに頼ることもできます。

場合によっては、転校によってその場から一旦避難することもいいでしょう。

なので、まずはいじめを把握したら、冷静に事態を把握してください。

そして落ち着いて、親としてできる行動をしっかり行ってください。

正論でいくことはベストではないかもしれませんが、ベターであることは確かです。

動画の拡散で、一時的には問題を鎮静化させることはできても、それは、永遠に続く二次被害をもたらす危険性があるということを知っておいてください。

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