37年前のインド ~バングラッシーとは~

インド依存症

私がインドに行ったのは、1987年、今から37年も前のことです。

世界中を見てきた目からしても、
インドはかなり強烈でした。

何が強烈だったかを説明すると
1冊の本が欠けてしまったりするので、
ここでは割愛しますが、とにかく強烈でした。

1度行くと、
二度と行きたくないと思うのですが、
しばらくするとまた行きたくなるのもインドです。

おそらく、この強烈さが変な意味で依存症になるのだと思います。

さて、ここでは、「バングラッシー」についてお話しします。

あまりに汚なすぎたガンジス川

「バングラッシー」の話の前に、
インドの聖地バラナシについてふれておきます。

インドに関心のある方ならだれでも知っていると思います。

バラナシ(旧ベナレス)はヒンドゥー教、仏教の一大聖地です。

首都デリーから南東に約820km、
カルカッタから北西に約700kmの場所に位置しています。

聖なるガンジス川を中心に広がる
バラナシの市内には、
大小1500近いヒンドゥー教寺院と
270以上のモスクがあると言われています。

国内外から、年間100万人を超える
参拝客が訪れ、ガンジス川の
西岸約500kmに渡って伸びる
階段状のガートで身を清め、市内の寺院に参拝します。

ガート沿いには寺院や
参拝客用のホテル、
民家がさまざまな形で立ち並んでいて、なかなかの壮観です。

バラナシ最大の見所といえば、
なんといってもガンジス川

ヒンドゥー教徒にとって、
ガンジス川で沐浴をすることは最大の夢なのです。

 

夜も明けきらぬ内から、
どこからともなく人々が集まり、日の出と共に沐浴をします。

中には、祈りを口にしながら
水を浴びる人やシャンプーや石鹸を使い、
ごしごしと体を擦りながら沐浴する人、
浮き輪で水遊びに夢中の子どもたちもいたりします。

私も沐浴をしましたが、
その水質のあまりのひどさと臭さに、
ものの5分ほどで、逃げ出すように川から上がりました。

現地の人によると、
ガンジス川の水は腐ることがなく、
遠くから来た巡礼者は、その水を持ち帰るとのことでした。

実際、ポリタンクに水を汲んで、
持ち帰る風景がよく見られたのです。

ガンジス川の水は腐らない?

そんなはずないでしょ。

あの濁りと、臭気。

あの頃のバラナシは、
おそらく下水道施設は完備されておらず、
すべての生活排水をガンジス川に流していたはずです。

それを持ち帰る

正気の沙汰ではありません。

まあ、それはいいとして、
とにかくガンジス川は恐ろしく汚かった。

今は浄化されていることを願っています。

バングラッシーのお誘い

さて、「バングラッシー」の話です。

ある日、知り合った日本人旅行者から、
「一緒にバングラッシー飲みに行かない?」と誘われました。

「それ何?」と聞くと、

「現地の僧侶が瞑想の前に
飲むヨーグルト(ラッシー)で、
お茶の葉が混ぜられていておいしい」とのこと。

ヨーグルトならいいだろうと、誘いに応じました。

そのころはGoogleマップはなかったので、
地球の歩き方」を片手に、
バングラッシーを売っている店に向かいました。

バラナシ特有の迷路のような、
人一人がすれ違えるくらいの細い道を進みます。

この、迷路のような道を行き来するのは
なかなかスリルがあったというか、
映画のワンシーンに入り込んだようなわくわく感がありました。

ただ、そんな狭い道にインド名物「のら牛」が
横たわっていたりして、通り抜けることが難しいことがありました。

イラっとしますが、
牛はインドでは「聖なる動物」ですから
邪険に扱うわけにはいきません。

しかたなく、引き返して、別の通路を探します。

そうこうしているうちに
「バングラッシー店」に到着しました。

ぶっ飛んだ!

屋台のようなお店で、
チャイを売っている店と変わらない。

売っている方も、普通のおじさん。

「僧侶が瞑想前に飲むラッシー」
を売る店、といった風格なし。

メニューを見ると、
スモール、ミディアム、ストロングとありました。

スモール、ミディアムまでは、
サイズを表す表記なのに、
なぜか最後はラージではなく「ストロング」なのが意味がわかりません。

しかし、ここはインド。

矛盾だらけがスタンダードの国。

そんな小さな疑問など、
意に介さなくなっている自分がいました。

ということで、
私は「瞑想」もしたかったので、
どうせならとすぐに効きそうな「ストロング」を選びました。

一緒に行った彼は、
ミディアムを選んでいました。

比べてみると、
量にほとんど違いはなく、色の濃さが違うだけでした。

練りこんだ「お茶」の量の違いを、
スモール、ミディアム、ストロングで
表しているのだと、そのときに気づきました。

まあどうでもいいのですが。

で、見た目ですが、
どのような感じかといいますと、
スタバで飲む「抹茶ラテ」を思い浮かべていただければいいでしょう。

ヨーグルトの「白」と抹茶の「緑」が
うまく掛け合わされて、
日本人なら抵抗なく受け入れられる色合いです。

味のほうも、ほろよい酸味と甘みに、
バング?の香りがしてなかなか美味しい。

たいした量でもないので、ぐいっと一気飲みしました。

「瞑想」ができる状態になるという
ふれこみなので、

その後ホテルに戻りベッドに座り、
典型的な瞑想ポーズでその時を待ちました。

ところが、何の変化もありません。

30分くらい待ったのですが、
それでも変化がないので、

あきらめて横になり
ウォークマン(懐かしい!)を
聴きながらウトウトしていました。

すると、突然、
そのウォークマンから聞こえてくる
曲の音色に変化が現れました。

おそらくマイケルジャクソンの
ビートイットだったと思うのですが、

それこそ、突然コンサート会場に
連れてこられたような臨場感に包まれたのです。

マイケルの声や息づかいが間近に聞こえ、
会場いっぱいに響き渡っています。

エレキギターの弦をはじく微細な音、
きしむ音、ドラムまで、
超、超、超、リアルに聴こえてきたのです。

「これ何?俺、酔ってるの?」。

なんて考えましたが、
酒で酔っている時のような
フラフラ感がなく、意識はむしろクリア

明らかに、今までに経験したことのない感覚。

試しに、ヘッドホンを外し、外を見てみました。

私の部屋は、
ホテルの4階くらいに位置して、
そこの窓から外を眺めてみたのです。

50mくらい先で、
インド人の女性同士が何やら
世間話をしているのですが、
その会話が明瞭に聞き取れるのです。

もちろんヒンディー語はわかりませんので、
その内容は理解できないものの、
まるでその女性たちが間近にいるように、
声のトーンや音質、単語一つひとつがクリアに聴こえるのです。

そして、その時は気づかなかったのですが、
私は近眼で、眼鏡なしでは10m先も
ぼやっとしか見えないはずが、

眼鏡なしで50m先のその女性たちの顔が、
ピンボケなしで、これまたクリアに見えるのです。

しかも、目に入るすべての色がド天然色

こんなにも世の中は、
美しい色で彩られているのかと、
言い知れぬ幸福感に包まれました。

そして、もう一度ヘッドホンを付け
ベッドに横たわると、
今度はホテルの天井に巨大なルーレットが現れ、それが回り始めました。

幻覚だとわかりながら
それを見ているので、
「こんな巨大なルーレットが、自分に落ちてきたら死ぬぞ」なんて考えません。

しばらくすると、
その巨大なルーレットは消えて、
なぜか目の前を燕のような鳥が、飛び交い始めました。

幻覚だとわかりながら、
うざったいので、
それを払おうと空中をかき回します。

とうぜんに、
かき回す手は空を切り、
燕を払うことができません。

このような訳のわからない幻覚が
しばらく続いたのちに、
いつのまにか眠りに落ちていました。

ただのヨーグルトではなかった

気が付いたのはその日の夜。

そこから、猛烈な下痢症状に悩まされ、
その調子の悪さは一週間以上続きました。

ここではふれませんが、あとからわかった話。

このバングラッシーは、
ただのお茶を混ぜたヨーグルトではありませんでした。

何が混ざっていたかは想像にお任せします。

幻覚の経験は忘れませんが、
二度と飲みたいとは思いません。

これは37年前の話です。

今もそのバングラッシーがあるのかどうか。

調べればわかるはずですが、
「試してみたい」と思われる方がいたら
困りますので、あえてリサーチをせずにこの原稿を書いています。

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